アラフォーから始める!健康管理

アラフォー世代は、若いころより体力が落ちてきて、健康について気になりはじめたものの、仕事や生活に追われ、特に何もできずに日々が過ぎていく、という方が多いのではないでしょうか。そこで、アラフォー世代が気を付けたい健康管理のポイントを、国際医療福祉大学大学院教授・和田耕治さんにうかがいました。この取材は2019年7月11日に行いました。

男性が気をつけたい
体重コントロールと孤独のリスク

―― アラフォー世代は、健康面で何に気をつけたらよいでしょうか?

40歳前後の人で一番大切なのは、体重コントロールをすることです。BMIが25を超えないように。一般的には22が理想と言われますが25を越えないようにを目標でもよいでしょう。

男性は、35〜40歳で体質が変わります。健康診断で去年と比べて5kg以上体重が増えていた、ということが起こるのが、この世代です。35歳くらいから基礎代謝がだんだん落ちてきます。食生活や運動習慣など、ライフスタイルを変えることなく生活しているので、気がつかないうちに体重が増えてしまうのです。

40代の段階で、BMI23から25を維持できるライフスタイルを送ることができれば、その後は体重があまり増えません。しかし、40歳の段階で太っていると、その後も体重は増え続けます。基礎代謝と食べる量のバランスをとることが大切です。

―― 体重をコントロールするには、どうすればよいのでしょうか?

ダイエットの基本は、食事と運動です。食事を減らすこと、運動することを両方しないと、体重は減りません。

産業医をしていて感じるのは、この5年間で労働時間が削減されたことです。ブラック企業もいまだにありますが、多くの企業で労働時間が減りました。しかし、5年前より労働者が健康になっているかというと、疑問が残ります。必ずしも健康になっていないと思うのです。

ダイエットの基本は運動と食事

―― 余暇が有効に使えていないのでしょうか?

昭和のころは、土曜日に半日、仕事に行ったり、学校に行ったりしていましたよね。それが週休2日になって、健康になったのかというと、わかりません。当時より今のほうが肥満も多いです。

労働時間が減り、例えば、今までは22時まで働いていた人が18時にはオフィスを出て帰るようになりました。仕事に費やしていた時間を、何をして過ごしているのでしょうか。家事の時間が増えたというわけでもなさそうだし、40代の人はお金もあまりなく、飲みに出かけている印象もありません。

労働時間が減り、手にした時間を健康に向くようにしてほしいと思います。家でインターネットをする時間が増えており身体的活動が減る方向になっています。

―― アラフォー世代の人たちを見ていて、どのようなことを感じられていますか?

産業医として面談をしていて、50代の独身男性で「何のために働いているのかわかりません」と考えていたりすると対応が難しい。50歳で結婚していて子どもがいる人は、進学の時期を控えてお金が必要になるため、「働くしかない」と考える人が多く、そのような人のほうがプレッシャーもありますが元気ではあります。逆にそのような動機がないと、「健康になりましょう」とアドバイスをしても、気力が湧かないように感じています。

人間は、基本的に誰かとつながっていないと生きられない生き物です。年をとるにつれ、だんだんと孤独になっていきます。今の60〜70代で、一度も結婚したことがない人は1割程度しかおらず、マイノリティです。昔は、世話好きな方がいて、強制的に結婚させていました。それは、ある意味で、守られていた社会だったと思います。

目先のことだけを考えれば、一人で暮らしたほうが効率的です。しかし、50〜60代になったときに一人で暮らしていると、孤独に陥ります。「周りには誰もいません」「結婚していないから、僕の写真なんて誰も見ないと思います」などと言われると、返す言葉がなくなってしまうのです。

特に男性は、孤独のリスクに備える必要があります。友人がたくさんいて、孤独ではないという人は、その関係性をずっと維持できるとよいと思います。定年して退職した後に、仕事以外の関係性をつくれるか。仕事をやめた後には、会社とはまったく違う世界がありますから。40代を迎えるころに、孤独のリスクをどう避けるかについても、考えられるとよいですね。

―― このサイトを見ているのは、その一歩手前の世代であるアラフォーの方たちです。そこに、いま、気がついてほしいですね。

健康管理の観点からも、一人暮らしの男性よりは、配偶者を伴うほうがよいと思います。いろいろなストレスがある社会の中で、配偶者を伴って生きていくことは、お互いの健康のためになるのではないでしょうか。

一人で生きていくと決めた場合は、孤独のリスクを考えていかないといけません。実際に30代後半の人と面談していて、「今、年齢的にもよいチャンスだから、結婚したらよいのでは」と勧めても、紹介する場所がないのですよね。例えば、何か趣味のサークルに行ってみては? と勧めても「いや、趣味がないので」と言われてしまう。週末もずっと家にいて、買い物に出かけることもないという人が多い印象です。男性は、孤独に陥るリスクを抱えているように思いますね。

女性が気をつけたい
乳がん・子宮がん検診

―― アラフォー世代の女性は、どのようなことに気をつければよいでしょうか?

乳がんと子宮がんに気をつけて、検診を受けてほしいです。家族歴のある人は、こまめに検査を受けることを心がけましょう。

―― 乳がん検診には、触診、超音波検査、マンモグラフィーと三種類あります。

いろいろな意見がありますが、若年者は超音波検査のほうがよいといわれています。40歳をこえれば、どちらかというとマンモグラフィーのほうがよいでしょう。医師による触診はとても難しいので、自分で行うのがよいと思います。しこりがあったら早めに受診してください。忙しかったり、何か病気が見つかったら嫌だと思ったりするのか、受診が遅れてしまう方が多いです。

精神の不調への対応は?

―― アラフォー世代の死因をみると、自殺も多いですね。

アラフォー世代で亡くなる人は少ないのですが、その中で、自殺が多いというのは問題ですね。

自殺してしまった人の話を聞くこともありますが、予測がまったくつきません。前日まで普通に働き、予兆を感じさせなかったり、中には明日出勤する準備をした後に亡くなった方もいます。

―― 精神的に不調を感じたときは、どうすればよいのでしょうか?

「今日は少し疲れたな」と思うことは、誰でもありますよね。大事なのは、疲れを自覚して、休息をとることです。真面目な人ほどがんばりすぎてしまうものですが、体は正直ですから、そのサインを受け止めることはすごく大切です。

 

睡眠をとり、筋力が落ちてしまって疲れやすくなっているのであれば、運動をします。1〜2日の不調は誰にでもあることですが、2週間以上続く精神的な不調は、介入をしないと治りません。休みを長くとる、受診して服薬することなどが必要でしょう。

疲れたら休む。休息が大事です

うつになる人は、その背景にライフイベントがあります。仕事で失敗した、評価が低かった、だまされた、家族の病気、子どもの不登校、家を買う、ローンを組む、交通事故など、ストレスを感じることが1つであれば乗り越えられるのですが、2〜3つ重なると耐えられなくなってしまう。不思議なもので、ある日突然、ストレスを感じることが重なって起こるのです。そうすると、何が起こっているのかが整理できなくて、混乱してしまいます。

疲れたら休む。休息が大事です

私は、そのようなときには「書き出しなさい」とアドバイスをしています。何が起こっているのか、それに対して自分は何ができているか、何ができていないのかを書き出して、優先順位をつけていくのです。それをやらずに、混乱したまま一人で考えていると、うつになってしまいます。思っていることを言語化することはすごく大事です。うつの人にはもちろん、「ちょっと疲れたな」と感じている人にもお勧めですね。

―― どのように書き出していけばよいでしょうか?

ノートや、チラシの裏などでもよいので、紙に書き出すことです。思っていることをただただ書いていき、言語化していきます。女性は、誰かに話すことで、気持ちや考えを言語化していけますが、孤独に陥っている男性は、そのように言語化することが難しい人もいます。特に一人暮らしの人の場合は、一人で抱えてしまうことも多いですね。

20〜30年後も健康でいるために

―― 今、アラフォー世代の人の20〜30年後の健康を守るために、中長期的な視点ではどのように健康を考えていけばよいのでしょうか?

アラフォー世代が5〜15年後に50歳代になったときに気をつけてほしいことは、具合が悪いと感じたら早めに受診することです。体調が悪かったり、検診で異常が発見されたりしても、受診しない人も多いのです。例えば、ある年に胸部レントゲンで異常が見つかって、翌年にも同じ指摘をされていて、3年後に肺がんの治療をしたという人もいます。異常が発見されてから2年間、受診しなかったそうです。50代になって体調が悪いと感じたら、早めに受診してほしいですね。

もっと高齢になったときの健康について考えると、介護を必要とする状態にならないように、脳梗塞、認知症、心疾患などの機能を落とす病気をどれだけ予防できるかがポイントになります。

例えば、高血圧は通院して治療することができますが、1日100円ほどする薬を飲み、月4000〜5000円、年間6万円ほどの治療費がかかるため、お金が出せなくて治療ができない人もいます。そのために、症状が悪化してしまうのです。通院できる人は、経済的に余裕があり、入院している人は経済的に豊かでない人が多いともよくいわれていますよね。経済的に豊かな人が健康を維持でき、経済的な不安を抱えて孤立しているなどの人たちが健康へのリスクも抱えるという二極化した状態が、今後はさらに進んでいくのかもしれません。お金をかけずにできること、例えば、歩いたり運動をしたり、友達をつくったりするなどして、今からリスクを減らすように備えていってほしいと思います。

―― 将来の健康リスクを意識して、今から取り組めば、ある程度、幸せに生きていけるのでしょうか?

幸せに生きていけるはずですよ。積み重ねだと思います。今は、長生きをする時代になりました。元気に長生きではなく、介護が必要な状態での長生きになるかもしれません。健康に関しても、日々の生活の積み重ねです。今は男性も4人に1人が90歳まで生きる時代です。90歳まで生きる人というのは特別な存在ではありませんが、90歳で元気な人というのは特別な存在なのです。90歳までのマラソンだと思って、自分でつくりあげていってほしいですね。

―― 最後に、アラフォー世代の読者にメッセージをお願いします。

アラフォー世代は、ほとんどの方が元気です。でも、60歳になったとき、70歳になったとき、90歳になったときと、中長期的なことは考えにくいですよね。でも、一番効果的に健康へのアプローチができるのは、この時期です。

実感をもって言えるのは、35歳から45歳の間に、体重をBMI22〜23、少なくとも25を超えずに維持できると、健康へのコストパフォーマンスが極めて高いです。50歳になってからでは、動脈硬化や高血圧が進んでしまいます。今、一番よい時期にいることを知ってほしいですね。

もう一つ、大切なことは、自分の健康への取り組みを周りにシェアすることです。よい健康行動をとっている友人がいることは、大きな財産なのですよ。お酒を飲んだり、タバコを吸ったりしている友達がいると遠ざかってしまうので、健康管理に取り組むマインドをもった友人をつくっておくのも大切です。

和田 耕治(わだ こうじ)さん

和田 耕治(わだ こうじ)さんプロフィール
産業医科大学医学部卒業、臨床研修医、専属産業医(3年間)を経て、カナダ国McGill大学産業保健学修士・ポストドクトラルフェロー、北里大学大学院博士課程修了。北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教、講師、北里大学医学部公衆衛生学准教授を経て、国立国際医療研究センター国際医療協力局、出向にてJICAミャンマー国主要感染症プロジェクトHIV専門家、JICAベトナム国チョーライ病院向け病院運営・管理能力向上支援プロジェクトチーフアドバイザーを歴任。2018年4月より国際医療福祉大学医学部公衆衛生学・医学研究科教授。労働衛生コンサルタント(保健衛生)、日本産業衛生学会指導医、社会医学系専門医協会指導医、日本体育協会認定スポーツ医。